【コラム】シリーズ『多焦点眼内レンズを使用してはいけない人って?』 エピソード1

最終更新日:2021年11月09日

シリーズ『多焦点眼内レンズを使用してはいけない人って?』 エピソード1
 
皆さん、今までコラム更新の間隔が段々と長くなっていた私ですが、今回はちゃんと早めに真面目に書くことができました。
 
なぜか・・・実はと言うと今は飛行機の中で、猛烈に真面目なことをしたい衝動に駆られているからです。
 
なぜか・・・実はと言うと昨年はコロナでリモート参加しかできなかった、眼科医としては重要度の高い日本臨床眼科学会が、きちんと学会場で開催され、最新の知識をたっぷり学んできた後だからです。
 
本当か?・・・実はと言うと私が座っている席の後ろに、私に同行して三日間朝から晩までお勉強してきた当院のスタッフ達が座っており、「院長すごい、もう仕事に取り掛かってる!」と隙間からのぞいてもらおう、というやましい気持ちが隠れています(笑)
 
というわけで、シリーズ『多焦点眼内レンズを使用してはいけない人って?』 エピソード0で宣言した通り、私が『多焦点眼内レンズ』の使用を慎重に判断するべき患者様なのに、その熱意に押されて『多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術』を行なった(行なってしまった?)体験談をご紹介したいと思います。
 
前回のおさらいですが、当院では
 
#弱視(生まれつきどうしたって視力が1.0出ない人)
#他に目の病気がある(緑内障や糖尿病網膜症など)
#片方の目は手術後で、単焦点眼内レンズが入っている
#70歳以上
#高次収差(特殊な乱視)が強い
 
以上のような患者様には『多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術』をお勧めしてはいません。ですが、時々「それでもいいから使用して欲しい」という患者様の熱意に根負けし、しぶしぶ使ってみることがあります。
 
今回はかなり進行した糖尿病網膜症の患者様A様に『多焦点眼内レンズ』を使用したケースをご紹介いたします。
 
糖尿病網膜症は失明率の高い非常にコワイ病気でして、失明しそうな末期にまでは進行していなくても「黄斑浮腫」などを起こして、ガクッと視力が出なくなる方も多くいらっしゃいます。(ちなみに「黄斑」というのは網膜の中でも一番大事な部位で、そこに水が溜まって腫れているのが「黄斑浮腫」です。)そしてA様も「黄斑浮腫」を起こしておりました。
 
A様は元々B眼科様で糖尿病網膜症の治療を受けておられた方で、白内障も進行して視力が落ちた為、B眼科様で白内障手術を計画中でした。ところが、「どーしても多焦点眼内レンズを使って欲しい」とのA様のご希望が強く、当院に紹介されてこられました。
 
もちろん多焦点眼内レンズを使うべきではない、と再三お話ししましたが、少しでも可能性があるなら使って欲しい、という熱意に押され使用することになりました。A様の名誉の為に申し上げますが、非常に頭の良い立派な方です。これからもバリバリ仕事をしたいので、できるだけ見えるようにしたい、という思いでいらっしゃいました。A様は最新の三焦点、連続焦点の多焦点眼内レンズをご希望でしたが、さらに複雑な情報を送信するレンズを使えば脳がパンクしてしまうので、ここは押し切って従来からある二焦点のレンズを使わせていただきました。結果は下の通りです。(*決して二焦点レンズが劣るわけではなく、患者様のニーズに沿って手元を見るための焦点距離を選べるので、良いレンズなんですよ)
 
手術1ヶ月後 (0.4)
手術3ヶ月後 (1.0)
手術8ヶ月後 (0.6)
 
(あれ?見えたり見えなかったり、不安定?)そうなんです、糖尿病をお持ちの方ではよくあることです。見える日もあれば見えない日も、見える時間帯もあれば見えない時間帯もあって、人によって違い過ぎて・・・治療法の選択に悩む理由です。


(写真1)


(写真2)

特にA様の場合、糖尿病網膜症による黄斑浮腫で機能が落ちている上に(写真1)、進行抑制のためにレーザー治療が施されており(写真2)、情報量の多い多焦点眼内レンズにとってはハンディキャップです。そして術後半年経った最近のやりとりです・・・
 
私「Aさん?多焦点レンズを入れた方の目、手元は見えますか?」
A様「うーん、あまり見えないです」
私「ですよね、やっぱり糖尿病網膜症の影響ですね」
A様「反対側も手術して欲しいです」
私「そうですね、反対側は単焦点レンズにしましょうね」
A様「いや、多焦点でお願いします」
私「・・・(なんでやねん!・・・失礼しました)」
A様「それでも多焦点レンズの方がよく見えるんでしょ?」
私「いや、お金の無駄です。単焦点レンズで同じくらいの効果を得られますよ」
A様「わかりました、言う通りにします」
私「(ほっ)」
 
両眼とも手術が終わり、A様は見え方について何もおっしゃいませんので、おそらく結果には満足しておられるんだと思います。むしろこれからもバリバリ仕事をするために立ちはだかる白内障という一つの心配事に対して、十分な取り組みを『自身で選択して』行なった、これで前を向ける、という風に満足しておられる感じがします。
 
私も少し役に立ったかな?ただし、糖尿病網膜症の管理はしっかりやらないといけないので、これからも気は抜けませんよー。ちゃんと診察来てくださいねー。
 
三愛眼科院長
樫本大作

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